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Keiichi HayashiK1884 Research Technology Space Industry Downstream Satcom Pnt

ALL.SPACE

光ビームフォーミングで複数軌道の衛星に同時接続するマルチオービット端末の英国企業

ALL.SPACE logo

公式サイト: all.space

設立
2013年
英国レディング
従業員
51〜200名
Glassdoor 2026
累計調達
約2.0億ドル
Tracxn 2026(推定)

基本情報

ALL.SPACEは、単一の平面アンテナで複数軌道(GEO/MEO/LEO)・複数ネットワークの衛星に同時接続できるマルチオービット衛星通信端末を開発・製造する英国企業である。2013年にJohn Finney(O3b Networksの元最高商務責任者)が「Isotropic Systems」として設立し、2022年8月1日に「ALL.SPACE」へ社名変更した(出典: satellitetoday.com 2026-04-30、公式サイト)。

本社は英国レディング(Reading)。英国にエンジニアリング拠点、米国にも拠点を持つ二拠点体制で、対象市場は防衛・政府、海事、航空、エンタープライズと幅広い。従業員数はGlassdoorで51〜200名規模とされる(2026年時点)。宇宙・衛星通信専業であり、他産業への横展開はしていない。

Seraphim Ecosystem Map 2026上の分類はDownstream > Satcom & PNT > Satcom Terminals。同名の「Isotropic」は旧社名であり、粒子物理などの別企業と混同しないよう注意が必要。

経営陣は、CEOがPaul McCarter(2024年9月就任、前COO。Racal、Thales、Cobham、Sercoでの経歴)、創業者John Finneyは退任してFounder兼取締役に、会長はChris Emerson(出典: 公式プレスリリース、satellitetoday.com 2024-09-04)。

顧客課題と製品

主な顧客は、米英を中心とする軍・政府機関と、海事・航空のモビリティ事業者である。顧客が抱える課題は「単一の衛星ネットワークへの依存」だ。従来のパラボラ(可動)アンテナは一度に一つの衛星としか通信できず、軌道間の切り替え(ハンドオーバー)で通信断が生じ、妨害・遮蔽に弱い。とくに戦場や有事の「競合環境(contested environment)」では致命的になる。

ALL.SPACEの主力は、可動部を持たない電子走査型の平面端末シリーズである。

  • Hydra 2(デュアルリンク): Ka帯。二つの衛星リンクを同時維持する海事・モビリティ向けの高耐障害端末。
  • Hydra 4(クアッドリンク): マルチバンド。四つのリンクを同時に張れる、防衛(MilSatCom)向けの最上位端末。
  • Hydra Max(Ka帯): Ka帯で二重接続を維持し、米軍WGS、SES O3b mPOWER、Viasat 3およびGX、Amazon Kuiper、Telesat Lightspeedなど主要コンステレーションに対応(出典: satellitetoday.com 2026-04-30)。

技術の核は光ビームフォーミング(optical beam-forming)を用いたアンテナである。これにより、性能を落とさずに複数軌道の衛星へ同時に、フルパフォーマンスのリンクを張れる。2021年11月にSES衛星を用いてGEOとMEO(O3b)への世界初の同時マルチオービット接続を実証している(出典: Via Satellite 2021-11-02、SES プレスリリース)。

導入後は、複数ネットワークをまたいだ冗長化・自動フェイルオーバーにより、妨害耐性と可用性が大きく向上する。ハードは再構成可能、サービスはソフトウェア定義で、後から機能追加ができる。乗り換え理由は「一台で複数軌道・複数事業者を束ねられる耐障害性」。逆にためらう理由は、電子走査アンテナ全般に共通する高い端末単価と、量産・商用化がまだ立ち上がり段階である点である(推測)。

ビジネスモデル

料金を支払うのは端末を調達する防衛・政府機関、および海事・航空のサービス事業者。収益モデルは端末ハードウェアの売り切りが中心で、ソフトウェア定義サービスによる継続収益(アップデート、機能ライセンス)を上乗せする構造とみられる(推測)。

単価は非公開だが、多軌道対応の電子走査型軍用端末は一台あたり数万〜数十万ドル規模になるのが一般的(推測)。粗利率はハード比率が高いうちは中程度にとどまりやすく、光ビームフォーミング部品の内製度とソフト比率の向上が利益率改善の鍵となる。アンテナ製造には設備・部材・熟練人員という固定費がかかり、量産効果が出るまでは利益率が伸びにくい構造である(推測)。売上計上までのリードタイムは、防衛調達特有の長い試験・認証プロセスを含むため長期化しやすい。

売上・粗利・利益などの財務は非公開。従業員規模(51〜200名)と累計調達額(約2.0億ドル)から見て、まだ本格的な量産売上フェーズには到達していない段階と判断できる(推測)。

市場と競争力

対象市場はマルチオービット/電子走査型(ESA・フラットパネル)衛星通信端末。LEOメガコンステレーション(Starlink、OneWeb/Eutelsat、Kuiper、Telesat)の立ち上がりで、複数軌道を束ねる端末需要が急拡大している。これが「なぜ今か」の中核であり、宇宙市場で事業を行う必然性そのものである。

主要競合は、Kymeta、ThinKom、Ball(現BAE)、Hanwha Phasor、Gilat、Intellian、Cobham Satcomなど。従来の代替手段は可動パラボラアンテナ。ALL.SPACEの差別化は、光ビームフォーミングによる「同時マルチリンク・フルパフォーマンス」で、単なる電子走査(一度に一リンク)を超える点にある。GEO/MEO/LEOと複数事業者を一台で束ねられる端末はまだ希少で、参入障壁は特許・光学設計ノウハウ・防衛顧客との実証実績にある。

顧客の切り替えコストは、防衛調達での認証取得と運用統合が深いほど高くなる。ネットワーク効果は薄いが、実運用条件で「一貫して性能を出した」実績(York幹部の言及)が模倣されにくい参入障壁を形成している。

実績と成長性

  • SESとの複数軌道フィールド試験(2021年、世界初のGEO+MEO同時接続実証)、SES GS(現SES Space & Defense)との米軍向けマルチビーム端末トライアル(出典: SES/SESSD プレスリリース)。
  • Telesatとのマルチオービット・アンテナのLEO試験完了(2022年、出典: Smart Maritime Network 2022-03-22)。
  • 主要コンステレーション(WGS、O3b mPOWER、Viasat、Kuiper、Telesat Lightspeed)への対応(出典: satellitetoday.com 2026-04-30)。

これらは実証・トライアル中心で、大規模な商用量産契約や受注残の具体的な公表額は確認できず。売上等の財務指標は非公開。代替指標として、York買収における総額3.55億ドルという評価額、二拠点体制、防衛顧客との継続的トライアルが、事業の実在性と成長期待を裏づけている。

最大の成長ドライバーは、York傘下でのバス(衛星)・地上局(Atlas Space Operations)・端末を統合した「エンドツーエンドの通信エコシステム」への組み込みで、米国防衛市場への販路が一気に開ける点である。

資本政策と投資評価

累計調達額はTracxnで約2.0億ドル(12ラウンド、2026年時点)。別ソースでは約1.6億ドルとの記載もあり、集計に幅がある(出典: Tracxn、Glassdoor、Promus Ventures)。主要投資家はSeraphim Space、Boeing、SES、AE Industrial Partners(AEI HorizonX)、Promus Ventures、Orbital Ventures、Firmament Ventures、英政府Future Fund、Space Angels、BOKA Groupなど19の機関投資家。SESとBoeingは2021年2月のシリーズBで初出資、2023年にシリーズCの追加投資が行われた(出典: 公式プレスリリース、Tracxn)。

出口(Exit)は明確で、2026年4月30日にYork Space SystemsがALL.SPACEを総額3.55億ドル(現金1.55億ドル+残りは株式)で買収すると発表、2026年Q3クロージング予定・規制当局承認待ちである(出典: satellitetoday.com 2026-04-30)。Yorkは2026年初にIPOで6.3億ドルを調達しており、これはOrbion(2026年3月)、Atlas Space Operations(2025年)に続くYorkの3件目の買収。

累計調達約2.0億ドルに対し買収額3.55億ドルは、投資家にとって概ね1.7倍前後のリターン水準にあたる(推測)。売上非公開のため売上マルチプルは算定できない。買収成立後は追加調達の必要はなく、York本体のバランスシートと防衛需要が資金源となる。

総合評価

一言で言えば「競合環境でも切れない多軌道アンテナを作る英国のディープテック端末企業」。顧客が選ぶ最大の理由は、単一端末でGEO/MEO/LEOと複数事業者を同時に束ね、妨害・遮蔽に強い通信を維持できる点。最強の競争優位は光ビームフォーミングによる同時マルチリンクと、実運用条件での実証実績である。

最大の事業リスクは、商用量産・コスト低減の遅れと、Kymeta/ThinKom等との端末価格競争。加えて防衛調達依存による収益の集中リスク。今後3〜5年の成長ドライバーは、York傘下でのバス+地上局+端末統合による米国防衛市場への販路拡大。競合比較では、技術先進性で上位、量産・商用実績では後発という位置づけ。投資対象としては、York買収でリターンが確定した局面であり、独立成長ストーリーは一区切り。判断できない点は、実売上・受注残・端末単価・粗利率などの財務実態(いずれも非公開)。

重要事項サマリー

項目内容情報源・時点
会社名ALL.SPACE(旧Isotropic Systems、2022年8月改称)公式サイト
設立/本社2013年 / 英国レディング(米国にも拠点)satellitetoday 2026-04
創業者/CEOJohn Finney(創業) / Paul McCarter(2024年9月〜)公式PR 2024-09
従業員数51〜200名Glassdoor 2026
主力製品Hydra 2/4/Max マルチオービット電子走査端末公式サイト 2026
中核技術光ビームフォーミングによる同時マルチリンクsatellitetoday 2026-04
対象市場防衛・政府、海事、航空、エンタープライズ公式サイト
累計調達約2.0億ドル(集計に幅、約1.6億ドル説も)Tracxn 2026
主要投資家Seraphim、Boeing、SES、AE Industrial、Promus等Tracxn/公式PR
主要実績2021年 世界初のGEO+MEO同時接続実証(SES)Via Satellite 2021-11
出口York Space Systemsが3.55億ドルで買収satellitetoday 2026-04-30
事業の強さ6.5 / 10本レポート評価

情報源