D-Orbit
軌道間輸送機IONで衛星の最終区間輸送を担う欧州の宇宙物流企業
公式サイト: dorbit.space
- 設立
- 2011年 イタリア・フィノモルナスコ
- 従業員
- 約400〜600人 2025年時点(推計)
- 累計調達(推計)
- 3億ドル超 2026年1月時点
基本情報
D-Orbit は2011年設立、イタリア北部フィノモルナスコ(コモ近郊)に本社を置く宇宙物流(スペースロジスティクス)企業。共同創業者はLuca Rossettini(CEO)とRenato Panesi(CCO)で、2人とも現職に在籍する(出典: Wikipedia, eoPortal)。ポルトガル、英国、米国に子会社を持ち、米法人D-Orbit USAは2024年7月に小型衛星製造事業を立ち上げ、Apollo Fusion出身のMike CassidyがCEOを務める(出典: Wikipedia, 2024年7月)。従業員は2022年時点で約200人、2025年初時点では約389〜600人と情報源により幅がある(出典: Tracxn/PitchBook系, 2025年1月)。
Seraphim Ecosystem Map 2026上の分類は Space Access 内の Launch > OTVs(軌道間輸送機)。宇宙専業企業であり、他産業への展開はない。同名で紛れやすいが、本社はあくまで軌道間輸送機ION Satellite Carrierを運用するイタリア企業である。
顧客課題と製品
主力製品はION Satellite Carrier。ロケットの相乗り(ライドシェア)で打ち上げられた後、複数の小型衛星を搭載したまま軌道上を移動し、各衛星を個別の軌道スロットへ順次投入する軌道間輸送機(OTV)である。2020年9月に初の商用ミッションを実施した(出典: SpaceNews, eoPortal)。
顧客の課題は、ライドシェアだとロケットが決めた1つの軌道にしか降ろせず、目的の軌道に届かない点にある。IONは「ラストマイル配送」を担い、各衛星を狙った高度・面へ精密投入することで、衛星事業者は専用ロケットを買うより安く、かつ自前の推進系を積まずに済む。ソフトウェアのミッション制御スイート「Aurora」、軌道上でセンサーや計算機を稼働させる相乗りホスティング/エッジ処理サービス「Advanced Services」も提供する。さらにGEO(静止軌道)衛星の寿命延長を狙う在軌道サービス機「GEA」を開発中で、ハードウェア(輸送機・サービス機)、ソフトウェア(Aurora)、サービス(輸送・ホスティング・寿命延長)を垂直統合している。
導入前後の変化は、専用ロケット比で低コスト・短納期での軌道投入、衛星側の推進系不要による設計簡素化。乗り換えをためらう理由は、代替として自前推進系の搭載や他OTV(Impulse Space等)も選べること、そしてIONの実績が大型群の一括配備よりニッチな精密投入に寄っている点である。
ビジネスモデル
料金を支払うのは衛星事業者、防衛・政府機関、研究機関。収益は主に(1)ペイロード単位・軌道投入単位の輸送料(売り切り型のミッション課金)、(2)在軌道ホスティング/計算サービスの従量・期間課金(継続収益寄り)、(3)ESA等の共同出資型の受託開発契約、の3本柱。将来のGEO寿命延長は年額サービス課金となり継続収益性が高い(推測)。
推定単価は非公開だが、ライドシェア相乗り+ラストマイル輸送は1ペイロード数十万〜数百万ドル規模(推測)。OTV事業は打ち上げ枠・製造コスト・人件費など固定費が重く、ミッション頻度が低いうちは粗利が薄い構造。在軌道サービスや寿命延長が積み上がれば、資産(サービス機)を長期間課金し続けられるためスケール時の利益率改善余地は大きい(推測)。受注から売上計上まではミッション設計・製造・打ち上げ待ちで1〜2年以上を要する。
市場と競争力
対象市場は軌道間輸送(ラストマイル配送)、在軌道サービス(寿命延長・デブリ除去・給油)、および軌道上エッジ計算。小型衛星の打ち上げ急増を背景に立ち上がった。主要競合はITV/OTVではImpulse Space(米、Mira/Helios)、Momentus(米、Vigoride)、Exotrail(仏)、Spaceflight(Sherpa)など。在軌道サービスではAstroscale、Northrop Grumman(MEV)が先行する。従来の代替手段は専用ロケットまたは衛星自前の推進系。
D-Orbitの優位性は、23回の輸送ミッション・144機の衛星投入という欧州随一の飛行実績と、欧州institutionalな顧客基盤(ESA・EU)にある(出典: 公式サイト, 2026年)。ESAとの€119.6M(2024年基準, 約1.3億ドル)RISE契約でGEO寿命延長の実証プライムに選定され、2028年打ち上げ予定(出典: European Spaceflight, ESA, 2024年10月)。欧州の宇宙自律性(自前サプライチェーン)志向が参入障壁と受注の追い風になる。一方、技術・コストで決定的に突出しているわけではなく、模倣困難性は飛行実績と規制対応の蓄積に依存する。
実績と成長性
公式サイト(2026年)によれば累計23回の輸送ミッション、83回のホステッドペイロード運用、144機の衛星投入を達成。2020年9月の初商用ミッション以降、着実に打ち上げ回数を伸ばしている。ESAとは€26MのIRIDE関連契約、€119.6MのRISE(GEO在軌道サービス)契約を締結し、政府・機関採用の実績を積む(出典: SpaceNews, ESA, 2024年)。
財務は限定開示。2021年の売上は約340万ドル(2021年基準, SPAC資料)、2025年初の年間売上は約3,500万ドル規模との推計がある(出典: Space Intel Report 2022, Tracxn系 2025年)。10倍規模の成長だが、絶対額はまだ小さく黒字化は確認できず。過去にBreeze Holdingsとの合併で$1.28〜1.4B評価のSPAC上場を計画したが2022年に中止された(出典: SpaceNews, Payload, 2022年)。従業員の200人(2022)から400〜600人(2025)への拡大、米国での製造立ち上げが成長の代替指標である。
資本政策と投資評価
累計調達額は推計3億ドル超。直近はSeries D 5,300万ドル(2026年基準)を2026年1月にAzimut Group主導で調達し、M&Aと軌道上計算能力の拡張に充てる(出典: SatNews, 2026年1月)。その前はSeries C 総額€150M(約1.66億ドル, 2024年基準)を2段階で調達し、Marubeni(丸紅)がリード、CDP Venture Capital、Seraphim、EIC、EIB/EIF、United Ventures等が参加した(出典: SpaceNews, D-Orbit, 2024年)。政府契約(ESA €119.6M等)は非希薄化の重要な資金・売上源。
丸紅・EU系機関・イタリア政府系CDPが株主に並び、欧州の戦略的宇宙アセットとして支援される構図。M&A原資を確保した点は非有機成長への意志を示す。SPAC上場は頓挫済みで、次の出口はIPO再挑戦か戦略的買収(推測)。売上マルチプルは非公開だが、SPAC時の$1.28B評価は当時売上$3.4Mに対し極端に高く、現在は売上成長で正当化余地が広がった。事業拡大に伴い次回調達(Series E等)が必要になる可能性は高い(推測)。
総合評価
一言で言えば「衛星のラストマイル配送を担う欧州の宇宙物流プラットフォーム」。顧客が選ぶ最大の理由は、23回・144機という実績に裏打ちされた信頼性と、ESA・EUの支援を背景にした欧州内サプライチェーンとしての位置づけ。最強の競争優位は飛行実績と機関顧客基盤である。
最大のリスクは、OTV市場でImpulse Space等との競争が激化し輸送単価が圧迫されること、そして売上絶対額が小さいまま資金依存が続く点。今後3〜5年の成長ドライバーは、GEO在軌道サービス(RISE、2028年)、軌道上エッジ計算/AI、M&Aによる能力拡張。投資対象としては、欧州宇宙自律性の追い風と豊富な株主基盤が魅力だが、黒字化時期と競争環境が不透明。競合比では飛行実績で先行するが、技術・コストの決定打には欠ける中位〜上位。財務の詳細(粗利率、受注残、最新従業員数)は非公開で判断できない部分が残る。
重要事項サマリー
| 項目 | 内容 | 情報源・時点 |
|---|---|---|
| 設立/本社 | 2011年 / イタリア・フィノモルナスコ | Wikipedia |
| 創業者 | Luca Rossettini(CEO), Renato Panesi(CCO) | Wikipedia |
| 従業員 | 約200人(2022)→約389〜600人 | Tracxn/PitchBook系, 2025年1月 |
| 主力製品 | ION Satellite Carrier(OTV), Aurora, GEA | 公式サイト, 2026年 |
| 実績 | 23ミッション / 144機投入 / 83回ホスティング | 公式サイト, 2026年 |
| 売上 | 約340万ドル(2021)→約3,500万ドル(推計, 2025) | Space Intel Report, Tracxn系 |
| Series C | €150M(約1.66億ドル), Marubeniリード | SpaceNews, 2024年 |
| Series D | 5,300万ドル, Azimut Groupリード, M&A用途 | SatNews, 2026年1月 |
| 主要契約 | ESA RISE €119.6M(GEO寿命延長, 2028年打上) | ESA/European Spaceflight, 2024年10月 |
| 過去のSPAC | $1.28〜1.4B評価で計画→2022年中止 | SpaceNews/Payload, 2022年 |
| 累計調達 | 推計3億ドル超 | 各種報道より集計, 2026年 |
情報源
- SpaceNews「D-Orbit raises 150 million euros in two-part Series C round」2024年9月 — https://spacenews.com/d-orbit-raises-150-million-euros-in-two-part-series-c-round/
- SatNews「D-Orbit Secures $53M Series D Funding to Accelerate M&A and In-Space Computing Capacity」2026年1月22日 — https://satnews.com/2026/01/22/d-orbit-secures-53m-series-d-funding-to-accelerate-ma-and-in-space-computing-capacity/
- ESA「ESA to build first in-orbit servicing mission with D-Orbit」2024年 — https://www.esa.int/Space_Safety/ESA_to_build_first_in-orbit_servicing_mission_with_D-Orbit
- European Spaceflight「D-Orbit Wins €119M ESA Contract for Satellite Life Extension Mission」2024年10月 — https://europeanspaceflight.com/d-orbit-wins-119m-euro-esa-contract-for-satellite-life-extension-mission/
- SpaceNews「D-Orbit valued at $1.28 billion in SPAC deal」2022年 — https://spacenews.com/d-orbit-space-deal/
- Space Intel Report「Satellite last-mile delivery startup D-Orbit to go public via SPAC…revenue in 2021 was $3.4M」2022年 — https://www.spaceintelreport.com/satellite-last-mile-delivery-startup-d-orbit-to-go-public-via-spac-valued-at-1-28b-revenue-in-2021-was-3-4m/
- eoPortal「D-Orbit Space Logistics Company」 — https://www.eoportal.org/other-space-activities/d-orbit
- Wikipedia「D-Orbit」 — https://en.wikipedia.org/wiki/D-Orbit
- D-Orbit 公式サイト — https://dorbit.space/