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Keiichi HayashiK1884 Research Technology Space Industry Space Access Supply

Epsilon3

宇宙運用の紙手順書を置き換える手順実行SaaS。米国軌道打上げの約3割を支える

Epsilon3 logo

公式サイト: epsilon3.io

設立
2021年
米国ロサンゼルス
従業員
33名
2026年5月時点(Tracxn)
累計調達
約1,890万ドル
2026年5月時点(Tracxn)

基本情報

Epsilon3は2021年に米国ロサンゼルスで設立された、宇宙機の製造・試験・運用手順を管理するSaaS企業である。創業者はCEOのLaura Crabtree(Northrop Grummanを経てSpaceXで約12年ミッション運用エンジニアを務め、Dragon初打上げと初有人飛行を担当)、COOのMax Mednik(元Google)、Aaron Sullivanの3名。Y Combinator(2021年バッチ)出身で、2021年3月のTechCrunch記事で「SpaceX出身者による創業」として報じられた。従業員は33名(Tracxn、2026年5月時点)と小規模ながら、顧客組織は135社超に達する(会社発表、2026年6月)。

Seraphim Ecosystem Map 2026ではSpace Access配下のSupply(Software)に分類される。祖業は宇宙専業だが、現在は防衛、核融合・原子力を含むエネルギー、先端製造業へ意図的に横展開しており、宇宙で獲得した信頼性を他の高リスク産業に輸出する戦略を取る。なお同名の他社(マーケティング企業等)とは無関係の、米国の宇宙運用手順管理SaaSである。

顧客課題と製品

主な顧客はロケット・衛星の開発企業、有人宇宙機運用者、政府・防衛機関である。これらの組織では、打上げや試験の手順が紙、PDF、Excel、Confluenceなどで管理されており、版管理の混乱、実行記録(as-run)の欠落、手作業ミス、トレーサビリティ不足が深刻な課題だった。失敗が許されない運用において「誰がいつどの手順のどのステップを実行したか」を証跡として残せないことは、品質保証と政府監査の両面でリスクとなる。

製品は純粋なソフトウェア(SaaS)で、モジュール構成を取る。手順作成・実行のExecute、製造実行(MES)と在庫管理のBuild、試験・要求管理のTest、スケジューリングのPlan、データ可視化のAnalyze、運用ログのShiftなどからなり、AIによる手順自動生成やMCPサーバー経由のAI連携も提供する。2026年6月2日には組織間の手順共有(Connect)やダッシュボードを加えた「Epsilon3 2.0」を発表した(PR Newswire)。導入効果として、同社は平均でユーザー1人あたり週2〜3時間の削減、一部顧客では15パーセント少ない人員で5〜6倍の生産性を主張する(会社発表のため割引が必要)。乗り換えをためらう要因は、既存文書資産の移行コスト、ITAR環境でのクラウド利用への慎重姿勢だが、後者はFedRAMP High認証とAWS GovCloud展開で相当程度解消されている。

ビジネスモデル

料金は顧客企業が支払う年間サブスクリプションで、ユーザー単価はBasicが月100ドル、Proが月200ドル(いずれも最低10ユーザー、年間契約、2026年7月時点の公式価格)、1,000名超の組織向けEnterpriseは個別見積でFedRAMP High環境を含む。閲覧専用ユーザーは無制限で無料とし、組織内での浸透を促す設計である。Proで10ユーザーなら年2.4万ドル、大手では数十万ドル規模になると推定される(推測)。

モジュール追加(Execute導入後にBuild、Testへ拡張)とシート拡大によるアップセル余地が大きく、典型的なland-and-expand型SaaSである。製造設備や在庫を持たないため粗利率は高くなりやすく(推測で70〜80パーセント台)、33名という人員規模で135社超を支えていることは効率的な販売構造を示唆する。政府・防衛案件は調達サイクルが長い一方、FedRAMP High認証済みのため競合参入までの時間的優位がある。

市場と競争力

対象市場は「複雑・高リスク作業の手順実行・製造実行ソフトウェア」で、宇宙に限れば数億ドル規模のニッチだが、防衛・エネルギー・先端製造まで含めればMES/コネクテッドワーカー市場として数十億ドル規模に広がる(推測)。従来の代替手段は紙・PDF・Excel・Confluence等の汎用ツールであり、直接競合は宇宙製造MESのFirst Resonance(ION)、汎用手順ツールのMaintainX、Process Street等だが、宇宙運用(打上げコンソール、有人運用)の手順実行に特化した点で差別化される。

競争優位の核は三つある。第一にコンプライアンスの堀。2025年7月に手順実行ソフトとして初のFedRAMP High認証を取得し(PR Newswire)、SOC 2、NIST SP 800-171、ITAR対応も揃え、政府・防衛顧客への参入障壁を築いた。第二に切り替えコスト。手順書と実行履歴(as-run記録)が蓄積するほど移行が困難になり、監査証跡としての価値も増す。第三にエコシステム効果。Epsilon3 2.0のConnectにより顧客とサプライヤー間で手順を共有でき、業界標準としてのネットワーク効果が生まれ始めている。打上げ頻度の急増と商業有人飛行の拡大で、紙ベース運用が物理的に追いつかなくなったことが、今この市場が立ち上がる背景である。

実績と成長性

顧客はNASA、Blue Origin、Firefly Aerospace、Rocket Lab、Virgin Galactic、Sierra Space、米宇宙軍、Axiom Space、Redwire、Stratolaunch、General Atomics、Commonwealth Fusion Systems等。同社によれば米国の軌道打上げの約30パーセントがEpsilon3を使うチームによって支えられている(2026年6月発表)。顧客数は2022年の約36社から2026年の135社超へと約4年で3倍超に成長した。政府実績として、SpaceWERXのOrbital Prime契約(2022年8月)、FedRAMP High認証(2025年7月)、AWSの米連邦政府向けICMPリスト掲載(2025年11月)がある。実運用実績も豊富で、打上げ・有人ミッションの現場で実際に使用済みの商用化段階にある。

売上・利益は非公開。代替指標では、顧客数の伸び、価格体系(公式公表)、CEOのInc. Female Founders 500選出(2026年3月)、Fortune誌掲載(2025年11月)など露出が増えており、推定ARRは数百万ドル台後半から1,000万ドル前後と見られる(推測)。

資本政策と投資評価

確認できる累計調達額は約1,890万ドル(Tracxn、2026年5月時点)。内訳は2021年3月の約100万ドルのシード、2022年1月の280万ドルのシード、2022年6月の1,500万ドルのシリーズA(リードはLux Capital、Moore Strategic Ventures、Y Combinator、MaC Venture Capitalが参加。SpaceNews、2022年6月)。なお一部のデータアグリゲーター経由で「2026年1月にBessemer主導で7,500万ドルのシリーズCを調達、評価額6億ドル」との情報が流通しているが、会社のプレスページ、SpaceNews等の一次報道で確認できず、Tracxn自身のページ(累計1,890万ドル、最終ラウンドは2022年シリーズA)とも矛盾するため、本稿では未確認情報として扱う。

シリーズAから4年経過しており、次回調達(シリーズB)が近い可能性は高い(推測)。バリュエーションは非公開。垂直特化SaaSとして高マルチプル(ARRの10〜15倍、推測)が付きやすく、PLM/MES大手(Siemens、PTC等)や防衛IT企業による買収の受け皿にもなり得る。IPOには売上規模が不足しており、当面はM&Aシナリオが現実的である(推測)。

総合評価

一言で言えば「ミッション運用の手順実行OS」である。顧客が選ぶ最大の理由は、失敗が許されない運用での証跡・版管理・リアルタイム協調を、政府水準のセキュリティ認証付きで即座に使える点にある。最強の優位性はFedRAMP High認証(業界初)と、蓄積されたas-run記録による切り替えコストである。

最大のリスクは市場の狭さと模倣可能性である。宇宙専業ではTAMが限られ、横展開先の製造・エネルギーでは資金力のあるMES大手や汎用ツールと正面衝突する。33名という組織規模で複数産業を攻めるのは分散のリスクもある。今後3〜5年の成長ドライバーは、打上げ頻度の増加、防衛の即応性投資(米空軍・宇宙軍のプロセス自動化需要)、核融合・原子力の建設ラッシュ、Connectによるサプライチェーン全体への浸透である。投資対象としては、資本効率が極めて高い垂直SaaSとして魅力的だが、正確なARRと成長率が非公開のため確度は中程度。競合比較ではFirst Resonance(製造寄り)に対し運用・政府認証で優位に立つ。情報不足で判断できない点は、正確な売上・成長率・解約率、および未確認のシリーズC調達の真偽である。

重要事項サマリー

項目内容情報源・時点
設立2021年、米国ロサンゼルスTechCrunch 2021年3月
創業者Laura Crabtree(CEO、元SpaceX)、Max Mednik(COO)、Aaron Sullivan公式サイト、Tracxn
従業員数33名Tracxn 2026年5月
事業手順実行・MES・試験管理のSaaS(Plan/Build/Execute/Test等)公式サイト 2026年7月
価格Basic月100ドル/人、Pro月200ドル/人、Enterprise個別(年間契約)公式価格ページ 2026年7月
顧客NASA、Blue Origin、Firefly、Rocket Lab、米宇宙軍、CFS等135社超会社発表 2026年6月
実績米国軌道打上げの約30パーセントを支援(会社主張)PR Newswire 2026年6月2日
認証FedRAMP High(業界初)、SOC 2、NIST SP 800-171、ITARPR Newswire 2025年7月7日
累計調達約1,890万ドル(シリーズA 1,500万ドル、Lux Capital主導)Tracxn 2026年5月、SpaceNews 2022年6月
未確認情報2026年1月シリーズC 7,500万ドル・評価額6億ドル説は一次情報で確認できず本調査 2026年7月13日
競合First Resonance、MaintainX、Process Street、紙・Excel等の現状維持G2/Capterra 2026年

情報源