Orbit Fab
軌道上で衛星に燃料を補給する宇宙のガソリンスタンド。給油口RAFTIの標準化を狙う
公式サイト: orbitfab.com
- 設立
- 2018年 米コロラド州ラファイエット
- 従業員
- 約50〜70名 2026年時点(推測)
- 累計調達
- 約6270万ドル+ 2026年時点
基本情報
Orbit Fabは2018年に設立された米国の軌道上燃料補給(In-space refueling)企業である。本社は米コロラド州ラファイエット。「宇宙の推進剤サプライチェーンを構築する」を掲げ、社内では自らを「宇宙のガソリンスタンド(Gas Stations in Space)」と表現する。(情報源: 公式About、2026年7月閲覧)
共同創業者はDaniel Faber。2022年には英国オフィスを開設し、約24名体制で欧州展開を進めた。2026年7月、私募エクイティ出身のPeter Shaper(旧CapRock Communications、Speedcast CEO)が新CEOに就任し、創業者Faberから経営を引き継いだ。従業員数は正式公表されていないが、複数のデータベース情報から2026年時点でおおむね50〜70名規模と見られる(推測)。(情報源: SpaceNews「Orbit Fab hires new CEO」2026年7月)
Seraphim Ecosystem Map 2026上の分類はSpace Segment内のIn-Space Economy、Space Services。宇宙専業であり、軌道上サービス(OOS)のなかでも燃料補給に特化している。
顧客課題と製品
主な顧客は、米国防総省・宇宙軍などの政府防衛機関、静止軌道(GEO)の通信衛星オペレーター、そして軌道上サービス事業者(Astroscaleなど)である。
衛星が抱える最大の課題は「燃料切れ=寿命」という構造である。高価なGEO衛星でも搭載推進剤を使い切れば運用終了となり、機体自体が健全でも廃棄せざるを得ない。防衛用途では、脅威に応じて軌道を機動的に変える(マヌーバする)ほど燃料を消費し、燃料が作戦上の制約になる。
Orbit Fabの製品構成は以下の通り。
- RAFTI(Rapidly Attachable Fluid Transfer Interface): 衛星側に取り付ける標準給油口(ハードウェア)。地上での燃料充填と軌道上での再補給の両方に対応する。従来2個必要だったfill-and-drainバルブの機能を1個に集約する。価格は1個あたり3万米ドル(2024年発表)。(情報源: TechCrunch、SpaceNews 2024年3月)
- 燃料デポ(NEST)・シャトル(RAVEN): 軌道上に燃料を備蓄するタンク(デポ)と、そこから顧客衛星へ燃料を運ぶ機体(サービス)。
- GRIP/UMPIRE: 補給時のドッキング・流体移送を支える機器類。
導入前は衛星寿命が燃料量で固定されるが、導入後はRAFTI搭載機であれば軌道上で再補給し寿命延長・機動運用が可能になる。乗り換え理由は、RAFTIが宇宙軍に軍用衛星向け補給インターフェースとして承認された「事実上の標準」である点。ためらう理由は、実際の軌道上補給がまだ実証段階(初回デモは2026年)であり、給油口を積んでも実際に燃料が届く保証がまだ薄いことである。
ビジネスモデル
収益源は大きく2つ。第1に給油口RAFTIの売り切り(1個3万米ドル)。第2に燃料そのものの従量販売である。GEOでの補給価格として、ヒドラジン最大100kgあたり一律2000万米ドル(2021年発表、約1kgあたり20万米ドル)という透明価格を公表した。SpaceXの打ち上げ価格公開に倣い、顧客が事業計画に補給費を織り込めるようにする狙いである。(情報源: Payload 2021年)
RAFTIは低単価・薄利だが、燃料販売と補給サービスは高単価で継続収益になり得る。RAFTIを多数の衛星に「標準」として先行搭載させ、後から燃料という消耗品を繰り返し売るという、プリンター本体とインクに近い構造を志向している。デポ・シャトルは製造・打ち上げに多額の固定費を要し、稼働率が上がるまで利益率は低い。顧客獲得から実際の燃料売上計上までのリードタイムは長い(給油口搭載から数年後の補給)。CEOのShaperは2026年7月時点で契約バックログが4000万米ドル超と述べており、これは実証成功後に売上化する見込みである。
市場と競争力
対象市場は軌道上サービス(OOS)のうち燃料補給。市場調査各社は在軌道リフューリング市場が2030年代に向けて年率二桁で拡大すると見込む(調査会社により幅あり)。
主要競合はNorthrop Grumman、Astroscaleである。ビジネスモデルに差がある。Northropはデポを介さず自機のタンク(GAS-T)で直接ドッキング補給する方式で、2027年にTetra-6衛星のPRM給油口で実証予定。AstroscaleとOrbit Fabはデポを軌道上に常設する長期供給型で、両社は協業関係にもある。従来の代替手段は「補給せず衛星を使い捨てる」ことであり、Orbit Fabの真の競合はこの現状維持である。
Orbit Fabの優位性は、RAFTIが宇宙軍Space Systems Commandに軍用衛星向けの承認インターフェースとして認定された点にある。標準を握れば、給油口が普及するほど後発の異方式は不利になり、切り替えコスト・ネットワーク効果・参入障壁が働く。RAFTIは公式発表で商用100機超+DoD 4機に設計採用(ベースライン)されたとされる。(情報源: Orbit Fab公式 2026年)今この市場が立ち上がる理由は、防衛側が機動運用のために燃料制約の解消を強く求め始め、政府がDIUのRAPIDS計画などで実証資金を投じているためである。(情報源: 公式、SpaceNews、Air & Space Forces Magazine 2025〜2026年)
実績と成長性
- 宇宙軍/DIU: 国防イノベーションユニット(DIU)のRAPIDS計画でデポ契約約1330万米ドルを獲得。RAFTIは軍用補給の承認標準に認定。(情報源: 各種報道 2025年)
- Tetra-5実証: 2026年6月、Orbit Fabの初号デポがAstroscaleの補給機と同一ロケットで打ち上げ予定。Impulse Space製機体がデポをホストし、宇宙軍Tetra-5衛星へRAFTI経由でヒドラジンを補給する初の軌道上デモを目指す(補給機Astroscale APS-Rは満タンで約30kg=66ポンドのヒドラジンを搭載)。(情報源: Space.com、SpaceNews 2026年)
- Astroscale US: 同社LEXIサービス機隊向けに燃料1トンの購入で合意(初期の商用需要実績)。
- 欧州ASTRAL: 2025年11月、英宇宙庁・ESAの資金最大約380万ドルを得て欧州コンソーシアムを主導。RAFTI/GRASP給油口を2028年までに軌道上実証する計画。(情報源: SpaceWatch.Global、Payload 2025年11月)
売上・粗利などの財務は非公開。代替指標では、新CEO招聘、契約バックログ4000万米ドル超、RAFTIの100機超採用、英・欧への拠点拡張が成長を示す。ただし現時点で軌道上補給の商用実績はゼロで、2026年のTetra-5が最初の真の試金石となる。
資本政策と投資評価
累計調達額は公開データベース(Tracxn)で12ラウンド計約6270万米ドル、投資家29社(2026年時点)。主なマイルストーンは、2019年に約300万ドル、2023年4月にシリーズA 2850万ドル、2026年3月に2000万ドル。加えて2026年7月、Stride Capital主導で2500万ドル超のつなぎ資金を調達し、同社創業者Don Rogersと元空軍少将Roger Teagueが取締役に就任した。(情報源: Tracxn、SpaceNews 2026年7月)
これらを合算すると累計調達は約8000万〜9000万ドル規模に達すると見られる(推測)。会社は現在、3000万〜5000万ドルのシリーズBを狙っており、これは2027年の少なくとも2件のデモと初期商用契約までの資金をカバーする位置づけである。政府契約(DIU約1330万ドル)や政府補助(ESA/UK約380万ドル)を受注実績として持つ。バリュエーションは非公開。出口はM&AまたはIPOが想定されるが、まず軌道上実証の成功が前提となる。デモの成否と調達環境次第で、シリーズB後もさらなる資金調達が必要になる可能性が高い(推測)。
総合評価
一言で表せば「衛星の燃料切れという構造的寿命問題を解く、標準規格先行型の宇宙のガソリンスタンド」である。顧客がOrbit Fabを選ぶ最大の理由は、RAFTIが宇宙軍に承認された事実上の標準であり、多数機に先行搭載が進んでいる点。最強の競争優位は、この標準ポジションが生む切り替えコストとネットワーク効果である。
最大の事業リスクは、2026年Tetra-5をはじめとする軌道上補給デモの技術的失敗、および実証前の資金枯渇。今後3〜5年の成長ドライバーは、防衛需要(機動運用)の顕在化、Tetra-5成功による4000万ドル超バックログの売上化、欧州ASTRALの前進である。投資対象としては、標準を握る先行者としての魅力は高いが、実証未達・長いリードタイム・資本集約性ゆえハイリスク・ハイリターン。競合Astroscale(協業かつ競合)・Northrop(自己資本力)との相対では、規格支配力で優位だが実行資本で見劣りする。財務詳細と最新の従業員数・バリュエーションは非公開で判断できない。
重要事項サマリー
| 項目 | 内容 | 情報源・時点 |
|---|---|---|
| 設立/本社 | 2018年/米コロラド州ラファイエット | 公式About 2026年7月 |
| CEO | Peter Shaper(2026年7月就任、創業者Daniel Faberから交代) | SpaceNews 2026年7月 |
| 主力製品 | 給油口RAFTI(3万ドル/個)、燃料デポ、燃料販売 | TechCrunch/SpaceNews 2024年 |
| 燃料価格 | GEOでヒドラジン最大100kg一律2000万ドル(約20万ドル/kg) | Payload 2021年 |
| RAFTI採用 | 商用100機超+DoD 4機に設計採用(ベースライン) | Orbit Fab公式 2026年 |
| 政府契約 | DIU RAPIDSデポ契約約1330万ドル、ESA/UK ASTRAL約380万ドル | 各種報道 2025年 |
| 主要顧客 | 米宇宙軍、Astroscale US(燃料1トン)、ESA/UK | Payload等 2021〜2025年 |
| 初の軌道上実証 | Tetra-5、2026年6月打ち上げ予定、APS-Rが約30kg(66ポンド)搭載 | Space.com/SpaceNews 2026年 |
| 累計調達 | 約6270万ドル+(2026年3月まで)+2026年7月つなぎ2500万ドル超 | Tracxn/SpaceNews 2026年 |
| 契約バックログ | 4000万ドル超(実証成功後に売上化見込み) | SpaceNews 2026年7月 |
| 主要競合 | Northrop Grumman、Astroscale、Clear Space、Obruta | SpaceNews等 2026年 |
情報源
- Orbit Fab公式「About Us」2026年7月閲覧 — https://www.orbitfab.com/about/
- SpaceNews「Orbit Fab hires new CEO and raises funding to support satellite refueling business」2026年7月 — https://spacenews.com/orbit-fab-hires-new-ceo-and-raises-funding-to-support-satellite-refueling-business/
- TechCrunch「Orbit Fab unveils $30K port to refuel satellites」2024年3月29日 — https://techcrunch.com/2024/03/29/orbit-fab-unveils-30k-port-to-refuel-satellites/
- Payload「Orbit Fab Announces In-Space Refueling Prices」2021年 — https://payloadspace.com/orbit-fab-announces-in-space-refueling-prices/
- Space.com「Private Astroscale probe will refuel Space Force satellites high above Earth on landmark 2026 mission」2026年 — https://www.space.com/space-exploration/satellites/private-probe-will-refuel-space-force-satellites-high-above-earth-on-landmark-2026-mission
- Payload「Orbit Fab Lands ESA, UK Space Agency Refueling Contract」2025年 — https://payloadspace.com/orbit-fab-lands-esa-uk-space-agency-refueling-contract/
- SpaceWatch.Global「Orbit Fab to Lead ESA-Funded Consortium in Delivering ASTRAL」2025年11月 — https://spacewatch.global/2025/11/orbit-fab-to-lead-esa-funded-consortium-in-delivering-astral-in-orbit-refueling-project/
- C4ISRNET「Orbit Fab ships first satellite refueling ports to Space Force」2024年3月 — https://www.c4isrnet.com/battlefield-tech/space/2024/03/22/orbit-fab-ships-first-satellite-refueling-ports-to-space-force/
- Air & Space Forces Magazine「Space Force Satellite Refueling Demos Coming in 2026 and 2028」2025年 — https://www.airandspaceforces.com/space-force-satellite-refueling-demos/
- Tracxn「Orbit Fab Funding & Investors」2026年 — https://tracxn.com/d/companies/orbitfab/