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Keiichi HayashiK1884 Research Startup

DUOLINGO

人間の計算力を活かす研究から始まり、モバイル化・継続率・課金の最適化で月間 1.4 億人に至った Duolingo のプロダクト史。

Duolingoは「優れた語学教材を作った会社」というより、学習を毎日の習慣に変える消費者向けアプリを、十数年かけて磨き続けてきた会社として見ると理解しやすい。歴史を大きく区切ると、次のような流れになる。

  1. ヒューマン・コンピュテーションの研究から、「人が自然にとる行動」を価値に変える発想を得る
  2. 無料の語学学習とWeb翻訳を組み合わせた事業として創業する
  3. スマホ対応でユーザーが爆発的に増える
  4. 翻訳収入を捨て、学習アプリに集中する
  5. 広告と有料プラン(Plus)で収益化する
  6. 2018年に月間ユーザー数が伸び悩み、継続率を数理的に改善する方針へ切り替える
  7. ストリーク・リーグ・フレンド機能で、口コミによる成長を加速させる
  8. Super・Family・Maxと上位プランを重ね、1人あたりの売上を伸ばす
  9. 2025〜26年、課金を強めすぎて無料体験を損ねたと認め、再び無料ユーザーの拡大を優先する

0. まず数字:ユーザー数はどこで伸び、どこで止まったか

2019年以降は、比較できる公式の指標が揃っている。2017〜18年については、当時公表された月間アクティブユーザー数(MAU)を参照した。

0.0 38.0 75.9 114 152 2017 2019 Q4 2021 Q4 2023 Q4 2025 Q2 2026 時期
  • MAU(百万人)

絶対値よりも、2017年から2018年にかけての足踏みと、そこからの再加速に注目したい。

時点ユーザー規模主な課題主な施策次の判断
2012約30万人(アクティブ)Web中心iPhoneだけで完結する設計へスマホ優先
2013500万人超(アクティブ)翻訳と学習の衝突スマホ版の拡大翻訳事業から撤退
2014約1,250万人(アクティブ)収益がほぼゼロ無料のまま拡大収益化の模索
2017約2,500万人(MAU)収益不足広告とPlus定額課金を本格化
2018約2,500万人(MAU)ユーザー数の停滞成長モデルの構築継続率を最優先
20203,670万人(MAU)習慣化ストリーク・リーグ・大量の実験成長の好循環
20226,070万人(MAU)次に何をやるかの迷い一本道の学習ルート・フレンド機能進み方を単純化
20241.167億人(MAU)収益化の拡大Super・Family・Max1人あたり売上の拡大
20251.331億人(MAU)成長の鈍化有料プランへの誘導・広告の増加無料体験の負担を見直す
2026 Q21.406億人(MAU)無料ユーザーの再拡大無料体験の負担を減らす目先の売上より毎日の利用者数

以下、この流れを歴史順に追っていく。


1. 前史:Luis von Ahnとヒューマン・コンピュテーション

共同創業者のLuis von Ahn(ルイス・フォン・アーン)は、グアテマラで育った計算機科学者だ。幼い頃から、家庭の経済力によって受けられる教育の質が大きく違うことを肌で感じていた。一方でコンピュータにも早くから親しみ、のちにDuke大学、カーネギーメロン大学(CMU)へ進む。

CMUで師事したのがManuel Blum(マヌエル・ブラム)。理論計算機科学と暗号の分野の巨人で、Luisはここで「複雑な問題を、根っこの構造まで削ぎ落として考える」力を鍛えられた。

この時期のLuisの研究は、「コンピュータには難しいが人間には簡単な作業を、どうやってシステムの一部として活かすか」という問いで一貫している。これがヒューマン・コンピュテーション(人間による計算)と呼ばれる分野だ。

CAPTCHA

当時のYahoo!は、プログラム(bot)による大量のアカウント作成に悩まされていた。Luisはこれに対し、botを精密に見分けようとするのではなく、人間には解けるが当時の機械には解けない問題を出すという逆の発想で応えた。歪んだ文字を読ませるCAPTCHAは、その代表例だ。

AIの弱点を「直すべきもの」ではなく、使える資源として扱った点が、この発想の要だ。

ESP Game

次にLuisは、人間の画像認識の力に目をつける。共同研究者のLaura Dabbish(ローラ・ダビッシュ)と作ったESP Gameでは、見知らぬ2人に同じ画像を見せ、同じ単語を入力できたら得点になる。プレイヤーは「相手の答えを当てるゲーム」をしているだけだが、その裏では「この画像は犬」といったAI学習用のデータが次々に作られていく。

最初の約4か月で、約13,630人が約29.4万枚の画像に約127万件のラベルを付けた。大ヒットしたゲームだったわけではない。むしろ注目すべきは、わずか1万人あまりで100万件を超えるラベルを生み出せるほど、人の小さな行動を効率よく「計算」に変えられたことだ。

reCAPTCHA

CAPTCHAが広まると、Luisは別の問題に気づく。世界中の人が毎日、読めても何の役にも立たない歪んだ文字に、膨大な時間を費やしている。それなら、その時間を役に立つ作業に変えればいい。

そこで、OCR(文字認識ソフト)が読み取れなかった古書や新聞の単語をCAPTCHAとして出題し、人間に読んでもらうreCAPTCHAを作った。2009年、GoogleがreCAPTCHAを買収する(買収額は非公表)。

ここまでを振り返ると、CAPTCHAは人間と機械の能力差を利用し、ESP Gameは役に立つ作業をゲームに埋め込み、reCAPTCHAは役に立つ作業を人々がすでにしている行動に相乗りさせた。この発想が、そのまま初期のDuolingoにつながっていく。


2. 2009〜11:Severin HackerとDuolingoの原型

LuisがCMUで出会ったのが、博士課程の学生だったSeverin Hacker(セヴェリン・ハッカー)だ。スイス出身で、チューリッヒ工科大学(ETH)で計算機科学を学んだあとCMUに進学。Luisの研究室を訪ねて「あなたと研究したい」と申し出たことから、2人の関係が始まった。

2人は当初、数学教育も候補に考えていた。しかしLuisの母語はスペイン語、Severinはスイスドイツ語で、2人とも英語を身につけたことで人生の選択肢が大きく広がった。その実感から、最初の教育分野として語学を選ぶ。

ただし、初期のDuolingoのビジネスモデルは今とはまったく違った。

初期のビジネスモデル

ユーザーの目的は無料で英語を学ぶこと。その裏でWeb上の記事が翻訳され、翻訳を必要とするCNNなどの企業がお金を払うという仕組みだった。

これはreCAPTCHAとほぼ同じ構造だ。reCAPTCHAでは「サイトを使うと本がデジタル化される」。Duolingoでは「英語を学ぶとWebが翻訳される」。つまりDuolingoは、もともと教育とヒューマン・コンピュテーションを掛け合わせた会社だった。

2011年にDuolingo, Inc. を設立し、LuisがCEO、SeverinがCTOに就いた。


3. 2012〜13:最初の爆発は教材ではなくスマホから

正式公開は2012年6月。iPhoneアプリを出す直前の時点で、アクティブユーザーは約30万人だった。

ここで最初の大きな転換が起きる。Duolingoは当初、スマホ向けにはWeb版を補う単語カード程度のアプリを考えていた。しかし初期メンバーのTyler Murphy(タイラー・マーフィー)らが、「スマホだけでDuolingoのすべてを完結させるべきだ」と判断する。

Web版をそのまま小さく表示するのではなく、レッスンを短くし、文字入力を減らし、単語をタップで選べるようにし、体験を「スキルを選ぶ → レッスンを解く → 達成を祝う」というループに絞り込んだ。最初からスマホのために設計し直したのだ。

反響

2012年11月にiPhone版を公開すると、約1週間で教育カテゴリの上位に入り、2013年にはAppleのiPhone App of the Yearに選ばれた。同年7月には、アクティブユーザーが500万人を超えている。

ここでDuolingoは、Web上の教育サービスから、毎日ポケットから取り出して開くアプリへと生まれ変わった。

ユーザー獲得

この時期の成長を支えたのは、成果報酬型の広告ではない。無料であること、LuisとreCAPTCHAの知名度、TED講演やメディア露出、App Storeでの紹介、そして口コミで伸びた。のちのDuolingoを形づくる「プロダクトそのものが成長を生む」やり方は、この時点ですでに始まっていた。


4. 2013〜14:「儲かる翻訳」より「伸びる学習」を選ぶ

スマホ版が伸びると、初期のビジネスモデルに矛盾が生じる。翻訳作業はWeb版ならできるが、スマホで長い文章を翻訳するのは向いていない。

さらに、「学習効果を高めたい」という目標と、「顧客に質の高い翻訳を納品したい」という目標がぶつかる。翻訳の質を優先すれば、ユーザーには「今学ぶべき問題」ではなく「顧客が訳してほしい文章」を出したくなる。つまり、教育の指標と売上の指標が、同じユーザーの行動を奪い合う構造になっていた。

Duolingoはここで翻訳事業から撤退する。短期的には唯一の収入源を手放すことになるが、伸びている学習アプリを守るほうを選んだ。

2014年頃には登録者約2,500万人、アクティブユーザー約1,250万人まで拡大した。その一方で、売上はほとんどなかった。


5. 2014〜16:巨大な無料サービスになったが、お金がない

この時期のDuolingoは、かなり奇妙な会社だった。ユーザーは猛烈な勢いで増え、2015年には累計1億人規模に達する。それなのに、稼ぐ仕組みがない。

2016年頃の社員は60〜70人ほどで、Luisによれば運営費は1日あたり約42,000ドル、年間に直すと約1,530万ドルにのぼった。高く見えるが、その大半はサーバー代ではない。エンジニア、プロダクト・デザイン、データサイエンス、言語学・学習科学の専門家、iOS・Android・Webの各チーム、音声認識・音声合成、コース制作ツール、英語試験、A/Bテストの基盤といった人材を抱える、人件費中心の研究開発組織だったからだ。Duolingoはのちの上場資料でも一貫して、人件費、とりわけ研究開発費を最大のコストとして挙げている。

最初の収益化:Duolingo English Test

最初の収益化は、学習コンテンツの有料化ではなかった。学んだ力を証明するところにお金をいただく。それが英語能力試験のDuolingo English Testだ。

「学ぶのは無料、証明は有料」と、使命と収益をきれいに切り分けられる、筋のいい発想だった。ただ、これだけでは会社全体を支えるには足りなかった。


6. 2016〜17:広告とPlusで、今の収益モデルが完成する

ここでDuolingoは、収益化の実験を本格的に始める。ただしLuisは一つだけ、譲れない一線を引いた。お金を払えない人でも、教材そのものは最後まで使えることである。

そこから生まれたのが、無料版と有料版の2層構造だ。

無料版有料版
学習コンテンツはすべて使える広告なし
広告が表示されるオフラインで使える
ところどころに不便さがあるハート(ミスできる回数)などの制限が緩む

2017年にはMAU約2,500万人、累計ユーザー約2億人に到達し、有料プランのDuolingo Plusを始めて定額課金を本格化させる。のちに最高プロダクト責任者(CPO)となるCem Kansu(ジェム・カンス)は2016年に入社し、収益化を率いていく。

ここでは、「学ぶためにお金を払う」のではなく「快適さにお金を払う」モデルを選んだことが重要だ。教材そのものではなく、より気持ちよく続けられる環境に課金してもらう。


7. 2018:収益化は成功した。しかしユーザー数が止まる

ここはDuolingoの歴史の中でも、とりわけ重要な局面だ。MAUは2017年も2018年も約2,500万人で、ほぼ横ばいだった。

一方、売上は大きく伸びていた。当時報じられた数字では、2016年の約100万ドルから、2017年に約1,300万ドル、2018年には約4,000万ドルの見込み。収益化そのものは成功している。しかし会社自身、前年はユーザーを増やすことより売上を伸ばすことに偏っていたと自覚していた。

どこに問題を見たか

Duolingoはここで、「広告をもっと出して新規ユーザーを買う」方向には進まなかった。代わりに問うたのは、登録者は増えているのに、なぜ毎月使う人が増えないのかだ。つまり、新規獲得ではなく「使い続けてもらえていないこと」を疑った。この問いの立て方が、その後のDuolingoを大きく変えることになる。


8. 2018〜20:継続率を「勘」ではなく数理モデルで扱う

成長チームは当初、単純に毎日の利用者数(DAU)を増やそうとしていた。しかしDAUはあくまで結果の数字なので、何に手を打てばいいのかが見えない。

そこでデータサイエンスのチームは、ユーザーを「新規」「現役」「離脱しかけ」「休眠」「復帰」という状態に分け、新規から現役へ、現役から現役のまま、現役から離脱しかけへ、休眠から復帰へ……といった状態の移り変わりをモデルにした。そのうえで、それぞれの移行率を少しずつ改善したら、将来のDAUにどれだけ効くかをシミュレーションした。

最も効果が大きかったのは、「現役ユーザーが翌日も使い続ける率」だった。新規ユーザーをさらに大量に集めるより、今日使ってくれている人に明日も使ってもらうほうが強い。ここからDuolingoは、継続率を最優先に据える。


9. ストリーク:学習を「途切れさせたくない財産」に変える

連続学習日数を記録する「ストリーク」自体は、2012年頃からあった。ただし当初は、1日の目標経験値(XP)を達成しないと記録が続かない、ややこしい仕様だった。継続率の改善チームはこれを、レッスンを1回でもやれば記録が続くように変更する。

この変更のA/Bテストでは、14日後の継続率が3.3%、全体のDAUが1%向上し、ストリークを持って毎日学習するユーザーの割合は20日間で10.5%増えた。さらに、「7日間続けられるか」にアプリ内通貨を賭ける機能を導入すると、7日後の継続率が14%伸びた。

ストリークは、単なる連続記録ではない。今日勉強することで得られるものより、これまで積み上げてきたものを失う痛みを大きくする仕掛けであり、学習を「財産を守る行動」に変えている。


10. リーグ:一人の学習を競争に変える

2018年頃からランキング機能のテストを始め、Luisによれば、導入によってアプリ内での学習時間が約20%増えた。

ここで、経験値(XP)、週ごとのリーグ戦、昇格・降格、順位が一つにつながる。XPが単なる点数ではなく、学習量を他人と比べられる共通の単位になったことが重要だ。ストリークが「時間の積み重ね」でユーザーを引き留めるなら、リーグは「他人との比較」で意欲をかき立てる。


11. ゲーム的な体験は誰が作ったのか

一人に絞るなら、今のDuolingoらしいゲーム体験を形にした人物としてTyler Murphyが重要だ。ただし、その思想の源流はLuisのヒューマン・コンピュテーションにある。

Tylerの役割

Tylerは初期のスマホ版を作り、スキルツリー、経験値、達成時の演出、レベルアップの仕組み、イラスト、ゲームのような見た目を、一つのアプリとしてまとめ上げた。当時の社内では、スマホゲームの研究が盛んに行われていた。

クラッシュ・ロワイヤル

最も直接的な影響が確認できるのが、王冠レベル(Crown Levels)だ。クラッシュ・ロワイヤルの「同じカードやキャラクターを繰り返し強化していく」仕組みを、「同じスキルをレベル1から5まで深めていく」構造に置き換えた。教育的には「同じ内容を復習しなさい」ということだが、ユーザーにとってはスキルを育てている感覚になる。Duolingoのゲーム化の本質がよく表れた例だ。

アングリーバード

アングリーバードについては、特定の機能を移植したという証拠よりも、教育アプリでもスマホゲームのように楽しく、世界観の統一されたものが作れるという、初期の設計思想への影響のほうが大きい。

ゼルダの伝説

ミスできる回数を表す「ハート」の発想には、ゼルダの伝説の影響が指摘されている。

ガーデンスケイプ:失敗例

手数に制限をかける仕組みを、学習に持ち込む実験もした。しかしガーデンスケイプでは「どの手を使うか」に戦略性があるのに対し、語学の問題は「答えを知っているか、知らないか」に近い。結果として、制限は「面白い難しさ」ではなく、ただの「邪魔」になってしまった。

ここからDuolingoが学んだのは、仕組みの形だけを真似ても意味がなく、それが元のゲームでなぜ面白いのかまで移さなければならないということだ。


12. 2019〜21:継続率の改善が数字に表れる

比較できる公式の数字は次のとおり。

年MAUDAU有料会員売上
20192,730万人520万人90万人7,080万ドル
20203,670万人820万人160万人1億6,170万ドル
2021(Q4)4,240万人1,010万人250万人2億5,080万ドル

※ 2021年の売上は通期。

2020年時点の売上の内訳は、定額課金が約73%、広告が約17%、英語試験が約9%、アプリ内課金が約1%。この段階で、「無料ユーザーが使い続け、その一部が有料会員になる」という現在のモデルが出来上がっている。


13. ユーザー獲得:広告よりプロダクト

Duolingoの大きな特徴は、成長の大部分を広告に頼っていないことだ。会社は一貫して、自然流入と口コミが主な獲得経路だと説明している。時期や指標によって母数は異なるが、2023年初めには新規獲得の約80%が自然流入、DAUの伸びの約90%が口コミによるものだと説明したこともある。

なぜ口コミが強いのか

ふつうの学習アプリは、「使えば学べる」で話が終わる。Duolingoでは、使うとストリークが伸び、達成が目に見える形になり、それをSNSで共有し、友人がそれを見て始める。つまり、使い続けてもらうための仕掛けが、そのまま新しいユーザーを呼ぶ仕掛けにもなっている。

「1000日連続」の記録は、その人の努力の証であると同時に、Duolingoの広告でもあるのだ。


14. 2020〜22:ブランドも成長の仕組みの一部になる

2020年、Manu Orssaud(マヌ・オルソー)がDuolingoに加わる。PlayStationを経てSpotifyで世界向けマーケティング戦略を担い、年末恒例の「Spotify Wrapped」にも関わった人物だ。最初は海外マーケティングを中心に担当し、のちに最高マーケティング責任者(CMO)となる。

Duolingoはこの頃から、テレビCMを大量に流すよりも、ユーザーの間ですでに生まれていたマスコット「Duo」のキャラクターを増幅する方向へ進む。

TikTokでDuoを大ブレイクさせた中心人物の一人が、Zaria Parvez(ザリア・パルヴェズ)だ。ユーザーの間で広まっていた「レッスンをサボるとDuoが殺しに来る」というネタを、会社が公式のキャラクター設定として受け入れた。

ここでもDuolingoは一貫して、会社から一方的にメッセージを発信するより、ユーザーが自分から参加したくなる仕組みを作るほうを選んでいる。


15. 2022:フレンド機能と一本道の学習ルート

2022年にはMAU 6,070万人、DAU 1,630万人、有料会員420万人まで成長し、ここで二つの大きな施策を打つ。

フレンドクエスト

一人で勉強するだけでなく、友人と2人で共通の目標を達成する仕組みを取り入れた。学習を「自分との約束」から、「友だちとの約束」に変える狙いだ。

スキルツリーから一本道へ

旧デザインでは、次にどのスキルを学ぶかをユーザーが自分で選べた。2022年のリニューアルで、これを一本道の学習ルートに切り替える。

反発も大きかったが、狙いははっきりしていた。「次に何をやろうか」と考える手間そのものをなくし、アプリを開いてからレッスンを始めるまでを短くすることだ。Duolingoは「選ぶ自由」よりも「続けてもらえる確率」を取った。


16. 2022〜24:成長の好循環がもっともきれいに回る

2022 Q42023 Q42024 Q4
MAU6,070万人8,840万人1億1,670万人
DAU1,630万人2,690万人4,050万人
有料会員420万人660万人950万人
DAU / MAU約27%30.4%34.7%

MAUが増えているだけでなく、毎月使う人のうち、毎日使う人の割合が上がっている。ここが非常に重要だ。Duolingoは単に市場を広げているのではなく、「月に何度か開くアプリ」から「毎日開くアプリ」へと変わりつつある。2024年Q2には、毎日の利用者の20%以上が1年を超えるストリークを持つまでになった。

好循環の構造

プロダクトの面では、良いプロダクト → 使い続けてもらえる → ストリークの共有や口コミ → 新しいユーザー → データが増える → 実験が増える → さらに良いプロダクトというループが回っている。

その上に定額課金が乗り、無料での規模拡大 → 有料会員への転換 → 研究開発への投資 → 無料版の改善 → さらなる規模拡大という経済の循環ができている。


17. 収益化の歩み:翻訳からSuper・Maxまで

Duolingoの収益化は、段階を踏んで広がってきた。

第1段階:翻訳。学習の副産物として生まれた翻訳を企業に売る。教育と衝突して撤退した。

第2段階:英語試験。学ぶのは無料のまま、能力の証明にお金をいただく。

第3段階:広告。無料ユーザーから、薄く広く収益を得る。

第4段階:Plus(現Super)。教材そのものではなく、快適さに課金する。広告の非表示、オフライン利用、ハートの制限緩和、ストリーク関連の機能、追加の練習問題など。

第5段階:ファミリープラン。1人あたりの単価は下げつつ、家族単位での契約額を上げる。

第6段階:Duolingo Max。生成AIによる「解答の解説」「ロールプレイ」「ビデオ通話」などを、最上位のプランに載せた。「同じ教材の制限を外す」課金から、AIによる新しい価値への課金へと、収益化の範囲を広げた。

売上は2022年の3億6,950万ドルから、2023年5億3,110万ドル、2024年7億4,800万ドル、2025年には10億3,800万ドルまで成長した。


18. 2025:再び、課金を強めすぎる

2025年Q4時点で、MAU 1億3,310万人、DAU 5,270万人、有料会員1,220万人。巨大な数字だが、伸び率は鈍った。MAUの成長率は2024年の約32%から2025年には約14%に落ち、DAUの伸びも鈍化している。

Luisは2026年の株主向けの説明で、これは規模が大きくなったことによる自然な減速だけでなく、ここ数年、収益化を強めすぎたことも一因だったと認めた。具体的には、広告を増やし、有料プランへの誘導を増やし、無料ユーザーに小さな不便を少しずつ足していた。

1人あたりの売上は伸びる。しかし、無料版の体験が悪くなると、毎日使う人の伸びが弱まり、長い目で見た新規獲得まで弱くなる。これは2018年とほぼ同じ構図だった。


19. 2026:5,000万ドル超の目先の売上を捨て、成長に戻る

そこでDuolingoは、かなり思い切った判断を下す。年間5,000万ドルを超える売上を、あえて手放す方針を打ち出し、無料ユーザーの負担を減らしてユーザー数の拡大を優先したのだ。

さらに、収益化チームの一部を「有料会員への転換」から、「新規ユーザーの拡大」へと配置転換した。代わりに、アプリになじむ形の広告、アバターの着せ替え、無料体験期間の延長など、毎日の利用を損ないにくい収益化の方法を探っている。

2026年Q2時点で、MAU 1億4,060万人、DAU 5,870万人、有料会員1,270万人。会社は、無料体験期間を延ばす初期の実験について、売上と毎日の利用者数の両方にプラスになりうるとの見通しを示している。


20. ユーザー獲得を時代ごとに整理する

時期成長の原動力具体的な中身
2011〜13話題性・App Store・無料Luisの知名度、TED講演、テック系メディア、無料、App Storeでの紹介、口コミ
2014〜18プロダクト主導の成長無料で使える、複数の端末に対応、コースの拡充、検索からの自然流入、App Store
2019〜22継続率が生む成長ストリーク、通知、リーグ、SNSでの共有、フレンド機能。使い続けることが新規獲得を生む
2020〜現在ブランドとネット文化Duo、TikTok、ネットミーム、クリエイター、国ごとのSNS運用

2026年には、公式SNSアカウントが四半期で10億回を超える自然な表示回数を生み出しており、中国・インドネシア・インドなどでは、その相当部分をクリエイターが生み出している。広告をまったく使わないわけではないが、Duolingoの成長の本体は、今も自然流入だ。


21. プロダクトと売上の関係

Duolingoは歴史の中で、ほぼ同じ教訓を二度学んでいる。

  • 2017〜18年:売上を伸ばす → ユーザー数が止まる → 継続率の改善に立ち返る
  • 2024〜26年:課金を強める → ユーザーの伸びが鈍る → 無料版の体験に立ち返る

ここから見えてくる会社の原則は、売上の最適化は、成長の仕組みを壊さない範囲でしか許されないということだ。目先の1人あたり売上を最大化するより、長い目で見たユーザー数と継続率を上位に置いている。


22. Duolingoのプロダクト思想をまとめる

現在のDuolingoは、次のようなループとして動いている。

段階仕組み
出会う無料・ブランド・口コミ
始めるレッスンが短い、一本道なので迷わない
続けるストリーク、通知、リーグ、フレンドクエスト
愛着を持つDuo、達成バッジ、ストリークの記録
広めるSNSでの共有、口コミ、ネットミーム
お金になる広告、Super、ファミリープラン、Max
磨くA/Bテスト、カリキュラムの改善、ゲーム要素の改善 → 再び「続ける」へ

23. Gattenへの示唆

Duolingoを参考にするとき、いちばん表面的なのは、経験値・ストリーク・リーグ・ハートをそのまま取り入れることだ。より大切なのは、学習には必要だけれど退屈な行動を、ゲームとして自然な「成長」に置き換えることである。

たとえば王冠レベルは、「復習してください」というお願いを、「スキルをレベル5まで育てよう」という目標に変えた。同じようにGattenでも、読む・覚える・復習する・苦手をやり直す・コースを修了するといった行動を、ただのタスクとしてではなく、何を育てているのか、何が積み上がっているのか、何を失いたくないのかという視点で捉え直す必要がある。

もう一つ大切なのが、順番だ。Duolingoは、

  1. 圧倒的に多くの人に無料で使われる
  2. 翌日また戻ってくる理由を作る
  3. 口コミが生まれる
  4. そのあとで、一部の人に課金してもらう

という順番で成り立った。だから、立ち上げ期の学習アプリでは、有料への転換率を最大化する前に、「使い続けてもらうことが新しいユーザーを呼ぶ」状態を作れるかを問うほうが大切だと、Duolingoの歴史は教えてくれる。


まとめ

Duolingoの歴史は、4つの転換で整理できる。

  1. ヒューマン・コンピュテーション:Luis von Ahnが、「人にやらせる」のではなく「人が自然にとる行動から価値を生む」という設計思想を築く。
  2. スマホ:2012〜13年、Webの補助ではなくスマホだけで完結する設計にしたことで、無料ユーザーが爆発的に増える。
  3. 継続率:2018年、売上は伸びてもユーザー数が止まり、成長モデルの分析から「現役ユーザーの継続率」を最重要指標と特定。ストリーク・リーグ・フレンド機能を実験で磨き上げる。
  4. 一線を守った収益化:広告 → Plus(Super)→ ファミリー → Maxと課金を広げるが、無料体験を損なうほど課金を強めると成長が鈍る。2026年には5,000万ドルを超える目先の売上を捨て、再びユーザー数の拡大を優先した。

結局のところ、Duolingoが作ったのは「語学教材」というより、人が毎日少しずつ学び続け、その継続そのものが次の利用・口コミ・売上を生み出す仕組みだと見るのが、最も正確だろう。